6月28日は何に陽(ひ)が当たったか?
1914年6月28日はサラエボ事件の勃発日です。
1878年のベルリン会議で決められたベルリン条約では、スラヴ系のボスニア・ヘルツェゴヴィナ両州は、パン=ゲルマン主義を唱えるオーストリア(この時代はオーストリア=ハンガリー二重帝国)が行政管理権を執ることになり、ロシアの指導するパン=スラヴ主義を掲げて独立・解放を求めていました。ベルリン条約で、先に独立したセルビアやモンテネグロといった南スラヴ系国家は独立を達成しても領域は小さく、特にセルビアは近隣のスラヴ系が住む地域を併せて、大きなスラヴ国家を建設しようとする”大セルビア主義“を目標として掲げていました。そのため、スラヴ系のボスニア・ヘルツェゴヴィナがゲルマン系のオーストリアに管理されているとはいえ、この両州をどうしても併合したい思惑があったのです。
こうした中で、1908年7月6日オーストリアはスラヴ系住民の多いボスニア・ヘルツェゴヴィナ両州を併合し、大セルビア主義を唱えるセルビアにとって、喉から手が出るほど欲しかった一番近い地域を、あろうことか最も取られたくない相手に取られてしまいました。これはセルビアだけでなく、パン=スラヴ主義の柱であるロシアも打撃をうけ、オーストリアが参加している三国同盟(他にドイツ、イタリア)と、セルビア、そしてその親的存在のロシアが参加している三国協商(他にイギリス、フランス)との間に大きな緊張が走り、対立を深めていきました。
セルビアには、ドラグーティン・ディミトリエビッチ大佐(1876-1917)という有能な軍人がおりました。ディミトリエビッチは1903年において、専政独裁をしくセルビア国王と王妃を暗殺した経歴を持つ民族主義者でしたが、専政から解放されたセルビア国民からは激励されて、やがて軍を任されることになった人物です。
1908年にオーストリアによって併合されたボスニアでは、オーストリア王家のハプスブルク家に対する抵抗があり、これらの中心となった青年による政治結社・青年ボスニアは、ボスニアの近代化、パン=スラヴ主義によるスラヴ統一を求めて、これらの活動を活発化させていき、セルビアも関心を寄せておりました。
一方セルビアには、反オーストリア主義と南スラヴ統一を掲げる、黒手組(ブラック・ハンド。正式名称は”統一か死か“)と呼ばれる、アピスというセルビア人が中心となっているテロ組織的な秘密結社があり、青年ボスニアからも学生をはじめ多くがこれにパイプをつなげるようになっていきました。やがて、黒手組は青年ボスニアに軍事的支援を約束することになります。実は、このアピス大佐こそ、ドラグーティン・ディミトリエビッチ大佐でした。
1914年6月28日、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(ハプスブルク家。在位1848-1916)の有力帝位継承者でした、皇太子である甥のフランツ・フェルディナント(1863-1914)と妻ゾフィー(1868-1914)が、陸軍演習を督励するためボスニアの州都サラエボに訪れました。フランツ・フェルディナントは1900年にゾフィーと結婚しましたが、ゾフィーは皇族出身ではなかったため皇室からは冷遇され、フェルディナントも皇帝と不和になって、子孫の帝位継承権は放棄し、陸軍総監をつとめていました(1913)。フェルディナントは、ボスニア訪問の際、ゾフィーを皇室生活から開放させる目的もあって同伴させたいわれています。
オーストリア皇太子夫妻がサライェヴォに向かうことを知った黒手組は、暗殺計画を企図し、青年ボスニアに所属する19歳のガブリロ・プリンチプ(1894-1918)ら7人にピストルや爆弾などを供与した(黒手組による事件へ関与は諸説あります)。1914年6月28日、皇太子夫妻を乗せたオープン・カー(搭乗前の写真はこちら。wikipediaより)が群衆の前を通過していたその時、その群衆にまぎれて待ちかまえていた7人の暗殺グループが突如オープン・カーに駆け寄り、プリンチプはピストルを取り出し、夫妻めがけて狙撃しました。凶弾に倒れ込んだ夫妻は、その後死亡が確認されました。プリンチプを含む暗殺団はその場で逮捕されました。
サラエボ事件によって、暗殺団の1人は死刑が確定しましたが、プリンチプを含む他の6人は未成年でしたので懲役刑となり、直接手を下したプリンチプは懲役20年の実刑判決を下されました。プリンチプは1918年、獄中で病気のために亡くなりました。この事件で1914年7月28日オーストリアはセルビアに宣戦布告、三国同盟と三国協商の世界戦争、いわゆる第一次世界大戦が勃発することになります。宣戦布告後、青年ボスニア並びに黒手組は解散して消滅、黒幕でありましたディミトリエビッチも殺害されました(1917)。
引用文献:『世界史の目 第89話』
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