6月27日は何に陽(ひ)が当たったか?

 1871年6月27日(明治4年5月10日)は、日本で初めて”“が世間に誕生した日です。当時は旧字体の”“の表記でした。
 江戸時代では金貨、銀貨、銭貨が経済を握っていました。東日本では小判などの金貨、西日本は丁銀などの銀貨が中心で、”江戸の金遣い”、”上方の銀遣い”と言われました。また銀貨が重さを価値とした秤量貨幣、金貨が数を価値とした計数貨幣として、それぞれの価値がはかられました。金貨は金1両(りょう)=4分(ぶ)=16朱(しゅ)、銀貨は銀1貫(かん)=1000匁(もんめ)=10000分(ふん)=100000厘(りん)=1000,000毛(もう)、そして銭貨は銭1貫(かん)=1000文(もん)と一般的に決められておりました。それぞれは変動相場制の中で交換する貨幣市場でありました。また江戸時代では各藩が発行する藩札(はんさつ)もあり、明治新政府となって以降、貨幣経済の統一が急がれていました。
 さらに幕末の開国で海外との金銀比価問題が起こり、大量の金が海外に流出していき、しかも国内では倒幕に関する軍事支出の増大が深刻となって、新政府の財政難が不安視されました。そこで1868年7月4日(慶応4年5月15日)、国家の金融管理を担当していた由利公正(ゆり きみまさ。1829-1909)は政府紙幣の太政官札(だじょうかんさつ)を発行しました。これは”金札”の1つである不換紙幣で、”太政官会計局”と印刷された、10両紙幣、5両紙幣、1両紙幣、1分紙幣、1朱紙幣の5種紙幣でした。しかしこれまで貨幣中心の生活が習慣化していた国民からしてみれば紙幣は慣れておらず、戊辰戦争が収まらない中で、国民はできたばかり新政府の信用度がまだ薄かったこともあって、10両紙幣は4両金貨程度の価値から8両前後の金貨にまで下落し、不人気でした。その後、英など納金用として太政官札を使用させるよう命じたり、太政官札を補完する役割で民部省発行の民部省札も送り出しましたが、今度は偽札が出回る始末で、かえって混乱を増し。由利公正は1869年に辞任することになりました。
 1869年3月17日(明治2年2月5日)、大蔵省の最高責任者だった大隈重信(おおくましげのぶ。1838-1922)の進言により、太政官に造幣局が設置され、8月には大蔵省管轄の造幣寮となりました。1871年1月17日(明治3年11月27日)に造幣寮が稼働を開始し、正貨(本位貨幣)用として金貨(20円・10円・5円・2円・1円)と銀貨(1円)の発行が準備され、また補助貨幣として銀貨(50銭・20銭・10銭・5銭)と銅貨(2銭・1銭・半銭・1厘)も合わせて準備されました。
 陽の当たった1871年6月27日(明治4年5月10日)、政府は新貨条例を公布しました。単位である”両”はすべて”円”となります(旧1両→新1円)。円の補助単位は銭と厘であり、1円=100銭=1000厘と定めて、十進法を採用した、新しい貨幣単位が誕生しました。当時欧米では金が正貨だったため、日本も金1円1.5g(米ドルに相当)の金含有量とした1円金貨を原価とする金本位制としましたが、アジア諸国では依然として銀本位であったため、貿易の円滑化をはかるための措置として、貿易用の1円銀貨(貿易銀)を含めた、結果的には金銀複本位制度の形態を採りました。また1872年4月には不換紙幣・9種の明治通宝(100円・50円・10円・5円・2円・1円・半円・20銭・10銭)も発行され、過去の藩札、太政官札、民部省札と交換させてこれらを回収していきました。
 ところが1877年の西南戦争における軍事費としての不換紙幣乱発でインフレと金銀流出が深刻化し、大蔵卿・松方正義(まつかたまさよし。1835-1925)による緊縮財政(松方デフレ)が始まり、下落した紙幣の回収整理を行い、1882年日本銀行設立に合わせて銀兌換銀行券(日本銀行券)を発行、銀の準備が可能となった1885年、銀本位制を確立させました。
 新貨条例の効果は、日清戦争の勝利で得た賠償金で本格的に金本位制に移行する1897年の貨幣法の制定(金1円0.75g)まで続きました。

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