8月11日は何に陽(ひ)が当たったか?

1979年8月11日は、アメリカのロック・グループ、REO Speedwagon(REOスピードワゴン)の8枚目のスタジオ・アルバムで、ライブ盤を入れると通算9枚目となるアルバム”Nine Lives(邦題:ナイン・ライヴス)”がBillboard200アルバムチャートで72位にエントリーした日です。
前作”You Can Tune a Piano, but You Can’t Tuna Fish(邦題:ツナ・フィッシュ。1978)”より新ベーシスト、Bruce Hall(ブルース・ホール)が加入しました。若き血が新たに注入されたこのアルバムでは、カットされたシングル2曲はBillboard HOT100シングルチャートでともに50位台にランクされ、アルバムもチャート29位を記録して、デビューした1971年からの労苦が実ったヒットとなりました。
“You Can Tune a Piano, but You Can’t Tuna Fish”は、時を経た1990年10月25日にて、RIAAのダブル・プラチナ・ディスクとして認定される名作となっていきます。ロングセールスを続けるには、その後の活動も腐らずにツアーと楽曲創りをしっかり続けた結果によるもので、今回取り上げる”Nine Lives”、そして次作以降の名盤をリリースすることで栄光を勝ち取ると同時に、それまで過去にリリースされたアルバムが再評価されていき、同じアメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)同様、息の長いロック・グループとして現在も精力的に活動を展開しているのです。
“You Can Tune a Piano, but You Can’t Tuna Fish”で揃ったラインナップは、Kevin Cronin(vo,guitar。ケヴィン・クローニン)、Gary Richrath(guitar。ゲイリー・リッチラス。1949-2015)、Neal Doughty(keyboards。ニール・ドーティ)、Alan Gratzer(drums。アラン・グラッツァー)そして前述のBruce Hall(bass。ブルース・ホール)の5人で、1987年の12枚目スタジオ・アルバム”Life as We Know It(邦題:人生はロックンロール)”までこのメンバーは続きます。結論から言うと、このメンバーでグループの黄金時代を築いていくわけです。そして、このメンバーで創り上げた2作目”Nine Lives”で前作を上回る期待が大いに寄せられました。
この”Nine Lives“というワードは「猫には九つの命がある→簡単には死なない。しぶとい」という意味があり、その後のAerosmith(エアロスミス)やBonnie Raitt(ボニー・レイット)、Robert Plant(ロバート・プラント)、Steve Winwood(スティーヴ・ウィンウッド)らがリリースしたアルバムのタイトルに使用されました。ありふれていると言えばそれまでですが、倒れても倒れても必ず甦る強い姿を見せてくれるという意味合いは、ファンにとっては非常に嬉しいタイトルにも思えます。REOの場合は、この意味だけでなく、ライブ盤を入れて9作目であること、収録曲が9曲であることも意味に含まれています。
“Nine Lives”では、The Beatles(ビートルズ)もカヴァーした、Chuck Berry(チャック・ベリー)の”Rock and Roll Music“が収録され、この曲を含めて全体的にノリの良い、ご機嫌なロック・ナンバー揃いで、Garyのハード・ロック志向が前作以上に前面に押し出された形となっています。とはいえ決して聴き手が限られるような音作りはしておらず、ハード・ロック要素をふんだんに盛り込みながらも、キャッチーなエッセンスも随所に注入しており、Gary Richrathのヘヴィー部門とKevin Croninのポップ部門が見事に融合した、非常に馴染みやすいアルバムとなっております。
Gary Richrathの作で、彼が1992年にリリースしたソロ・バンド、Richrathのデビュー・アルバムのタイトルにも使用された3曲目”Only the Strong Survive“が”Nine Lives”からの唯一のシングルとなりました。結果は残念ながらチャートには現れませんでしたが、このアルバムにはもう1つ、ハイライト曲があります。それは、最後に収録された”Back on the Road Again“です。この曲はBruce Hallが書いた曲で、かつBruceがリード・ヴォーカルを取る異色作です。この曲はその後のツアーで定番となり、その後のベスト盤やライブ盤でも大いに聴かれるロック・ナンバーです。個人的には1991年リリースのライブ&ベストアルバム”The Second Decade of Rock and Roll 1981 to 1991“に収録された”Back on the Road Again”のライヴ・ヴァージョンは特に格好良く、イントロではBruceのベース音で始まり、Kevinのかけ声で始まるところが印象的です。
さて、陽の当たった1979年8月11日、72位でエントリーした”Nine Lives”は、その後64位→46位→42位→38位→34位→34位と上昇、次の9月29日付での33位が最高位となり、その後34位→54位→84位→86位→93位→93位→123位→134位→134位→144位→164位でいったんはチャート圏外に消え、このアルバムの寿命が尽きたかに見えました。ところが、1980年にリリースされた次作”Hi Infidelity(邦題:禁じられた夜)”、および先行シングル”Keep on Loving You(邦題:キープ・オン・ラヴィング・ユー)”がアルバム・シングル共に全米で1位を記録する大ヒットとなり、彼らの黄金時代が到来すると、”Nine Lives”は1981年3月7日付で1年余ぶりに184位で再エントリーしました。そして次週184位→193位→188位と4週間とどまり、通算23週のチャートインとなりました。同じように”You Can Tune a Piano, but You Can’t Tuna Fish”やそれ以前のアルバムも再びチャートにエントリーする現象を引き起こしました。
“Nine Lives”は前作”You Can Tune a Piano, but You Can’t Tuna Fish”の29位には及ばない、ゴールド・アルバムにとどまり、前作以上のヒットは結果的には得られませんでしたが、デビューから”Nine Lives”までの10年の労苦は、次作”Hi Infidelity”の誕生で見事結実、優れた楽曲を次々と世に産み出し、黄金時代の到来によってに過去の力作も再評価されていきました。そして”Keep on Loving You”を含む2曲の全米1位シングルの他、11曲のTop40入りシングルと、充実した80年代を謳歌していくのでした。

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