6月5日は何に陽(ひ)が当たったか?

1976年はスイス出身のキーボード・プレイヤー、Patrick Moraz(パトリック・モラーツ。1944生)のデビュー・アルバム”( The Story of ) I“がBillboard200アルバムチャートに145位にチャート・インした日です。
パトリック・モラーツの姉は映画監督、脚本家のPatricia Moraz(パトリシア・モラーツ)で、姉弟はスイスのモルジュ出身です。パトリックは音楽の道に進み、ローザンヌの学校で音楽を学びました。その後ヨーロッパ活動を行い、ジャズ/フュージョンのキャリアを積みました。
1969年、パトリックはロックの世界に足を踏み入れ、MainHorseなるジャズ・ロック・グループで短期間活動しました。MainHorseのアルバム”MainHorse(1971)”では、のちに参加するYes(イエス)やThe Moody Blues(ムーディー・ブルース)などで聴かせてくれる独特のサウンドはまだ完成されていませんが、所々において、その原型に相当するような音も耳にできます。
1973年、イギリスのプログレッシブ・ロック・グループ、The Nice(ナイス)のベーシスト、Lee Jacksonと同じくナイスのドラマー、Brian Davisonの両名と出会い、プログレッシブ・ロック・トリオ、Refugee(レフュージー)を結成、翌1974年バンド名を冠したアルバム”Refugee“をリリースします。組曲形式の”Grand Canyon Suite”、”Credo”など興味深いプログレ・ナンバーもありましたが、その後Refugeeは分裂し、スタジオ・アルバム1枚とライブ盤1枚を残したのみで活動は終わりました。Refugeeでのパトリックの存在は大きく、その後の活躍で聴ける、パトリック流のインプロビゼーションを聴かせてくれます。
直後にパトリックは当時本国イギリスのみならず、アメリカでも不動の地位を築いていたプログレッシブ・ロック・グループ、Yes(イエス)に加入しました。この頃のイエスでは、前作”Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)”を最後にキーボーディストのRick Wakeman(リック・ウェイクマン)が脱退しており、キーボーディストが不在であったため、パトリックに白羽の矢が立ちました。。
パトリック・モラーツはYesのメンバーとして、”Relayer(邦題:リレイヤー)”がリリースされましたが、アルバムチャートでは全英で4位、全米で5位を記録しました。パトリックの故郷スイスではチャートインはありませんでした。
“Relayer”ではパトリックの存在が光り、これまでのクラシック寄りあるいはアコースティック寄りだったYesのサウンドが、ジャズ寄りにシフトしていった作品で、Refugee時代の音をそのままイエスでも再現したかのようなインプロビゼーションがふんだんに盛り込まれました。しかしパトリックはYesではこの作品のみで、程なく脱退してしまいました。このため”Relayer”はイエスの長きにわたるキャリアの中で、最もジャズ・ロックに近づいた、異彩を放った作品となりました。
こうしたキャリアを積んで、ついにソロ・スタジオ・アルバムの制作にかかりました。パトリック自身のプロデュースで、John McBurnie(lead vo.)、Jeff Berlin(bass)、Alphonse Mouzon(drums)、 Andy Newmark(drums)、Ray Gomez(gtr)ら、技巧派ミュージシャンが参加したほか、ブラジルのパーカッショニストも参加し、ブラジル音楽のエッセンスを注入しました。ジャングルのど真ん中にそびえる巨塔をベースにした物語をコンセプトにし、パトリックの展開の激しい、かつ繊細なメロディーを併せ持つ独特の音楽をベースに、ブラジリアン・パーカッションが縦横に活躍する、プログレッシブ・ロックとも、ジャズ・ロックとも、ワールド・ミュージックとも取れる変幻自在な音楽を創り出したのです。こうしてアルバム”( The Story of ) I“は完成しました。
収録された楽曲には、”Impact”、Intermezzo”、”Indoors”、”Incantation (Procession)” 、”Impressions (The Dream)” と、それこそ”I”で始まるタイトルが多く、ジャケットも”I”をとがった二等辺三角形を逆さまにした図形を中央に描かれています(外部リンク)。
“( The Story of ) I”は陽の当たった1976年6月5日に145位でチャートインし、200以内で5週間チャートイン、4週目の132位が最高ランクとなりました。パトリックはその後も順調にアルバムを制作していき、80年代では、プログレッシブ・ロックの大御所、The Moody Blues(ムーディー・ブルース)のキーボーディストとしても参加しました。メンバーチェンジを契機に、彼らの持ち味でプログレ特有の楽器であるメロトロンを捨てて、大衆受けするポップ・ロック風にイメージ・チェンジしていたムーディー・ブルースのサウンドに、あのパトリックの激しいジャズスタイルのメロディーが妙にマッチし、全米ナンバー・ワンアルバムも誕生(“Long Distance Voyager“。邦題:魂の叫び。1981)、ロック界に大きく貢献するのでした。
参考:Wikipediaより

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