9月1日は何に陽(ひ)が当たったか?
1978年9月1日は、アメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)の8枚目のスタジオ・アルバム、”Pieces of Eight(邦題:古代への追想)”がリリースされた日です。このブログはなにげにStyx贔屓ですが、なにぶん古くからのファンでありますので、その点はご勘弁下さい。
1975年A&Mレーベルに移籍して”Equinox(邦題:分岐点)”、”Crystal Ball(邦題:クリスタル・ボール)”、そして”The Grand Illusion(邦題:大いなる幻影)”の3枚のスタジオ・アルバムを発表して、着実に漸進してきた彼らの、かつてない大作がこの”Pieces of Eight”です。言うまでもなく、Dennis DeYoung(デニス・デヤング。vo,key)、Tommy Shaw(トミー・ショウ。gtr,vo)、James [JY] Young(ジェームズ・ヤング。gtr,vo)、John Panozzo(ジョン・パノッツォ。drums)、Chuck Panozzo(チャック・パノッツォ。Bass)のメンバー5人によるプロデュース、そしてBillboard200アルバムチャートで6位を記録した前作”The Grand Illusion”と同じくシカゴのParagon Recording Studiosにて、Rob KingslandやBarry Mrazらエンジニア陣の強力なバックアップで制作されました。
今回のジャケットはアルバム・コンセプトに忠実に従った形でデザインされましたが、カバーデザインを担当したのはPink Floydや10ccなどのジャケットを手がけたHipgnosis(ヒプノシス)で、”Pieces of eight”の全デザインでは、登場する婦人やStyxのメンバーの中で、誰一人顔の全体が描写されていないのが印象的です(ややJYとChuckが7割ほど描写)。
“Pieces of eight”というのは銀貨を表します。アメリカ大陸がスペイン領だった時代、アメリカで流通したスペインのレアル銀貨の”レアル”は英語で言う”royal”と同じ意味で、”王”を意味します。8レアル銀貨はスペイン・ドル、メキシコ・ドルと呼ばれてアメリカでは1ドル銀貨として通用したのです。この8レアル銀貨が”Pieces of eight”と通称されております。
そして、この”Pieces of eight”と題して展開される本アルバムのコンセプトは”人の生き方”です。巨万の富を有した婦人たちが、齢を重ねていきながらも贅沢の限りを尽くし、贅沢の一環として古代遺跡のモアイ像のあるイースター島へ旅行します。張り切ってモアイ像をかたどったイヤリングをしたご婦人たちは降り立ったイースター島で、歩んできた人生とその現実に痛感するのです。時代と共に島の文明が退廃して行くも、その遺産として永遠に残るモアイ像に対し、奢侈に耽るたびに消えていく財産を目の当たりにした富豪自らも、老いてはやがて消えていく、といった極端に対照的な現実を楽曲にのせて世にうったえた作品です。
さて曲目の紹介ですが、以下の10曲になります。2曲はインストゥルメンタルで、これを除いた8曲、つまりタイトルの”Eight”にも関わっています。
A面(アナログ)
1.”Great White Hope(邦題:グレイト・ホワイト・ホープ)”。JY作。
2.”I’m Okay(邦題:アイム・OK)”。DeYoung,JY作。
3.”Sing for the Day(邦題:この一瞬のために)”。Shaw作。
4.”The Message(邦題:メッセージ)”。DeYoung作。
5.”Lords of the Ring(邦題:指輪物語)”。DeYoung作。
B面
6.”Blue Collar Man (Long Nights)(邦題:ブルー・カラー・マン)”。Shaw作。
7.”Queen of Spades(邦題:スペードの女王)”。JY,DeYoung作。
8.”Renegade(邦題:逃亡者)”。Shaw作。
9.”Pieces of Eight(邦題:ピーシズ・オブ・エイト)”。DeYoung作。
10.”Aku-Aku(邦題:アク・アク)”。Shaw作。
1曲目収録の”Great White Hope“は、1982年1月13日の来日武道館公演では前奏に”James Bond 007 Theme”を入れて演奏されました(ブートレグ盤ライブ”The Live Illusion”の4曲目収録)。Wooden Nickelレーベル時代、オープニングとなる1曲目は、JYのヴォーカルでJYのギター・ソロが聴ける、ハード・ロック・ナンバーが定番で、A&M移籍後も”Crystal Ball”の1曲目、”Put Me On”は、JYのヘヴィーでノリの良い、アルバムに勢いを付けるナンバーでした。大ヒットした前作”Grand Illusion”ではDennis DeYoungが1曲目を歌いましたが、本作でまたJYがオープニングを飾る形に戻り(ただし冒頭にDennisの叫びがあります)、歓声の効果音を用いるなどしてダイナミックでライブ感ある作品に仕上がっています。個人的には収録曲の中で最も気に入っており、何度聴いても鳥肌が立つほどしびれる曲です。イリノイ州シカゴのライブを収録したブートレグ盤ライブ”Pieces Of Eleven”でも1曲目に収録されています。
2曲目”I’m Okay“は打って変わってDennisが歌うドラマティックかつポップな楽曲です。セント・ジェームス大聖堂でレコーディングされ、パイプ・オルガンの響きが印象的なナンバーです。
3曲目”Sing for the Day“はこのアルバムからのセカンド・シングルとしてカットされ、1979年2月10日付Billboard HOT100シングルチャート41位を記録したTommyがヴォーカルのポップなナンバーで、コーラスとシンセサイザーの美しさとしなやかさを合わせ持つ曲です。
ここまでの3曲、三者三様の音楽がクリエイトされるだけでも驚きですが、次のDennis のシンセサイザー・インストゥルメンタルの4曲目”The Message“を前奏に展開する5曲目のプログレッシブな”Lords of the Ring“は、収録時間が4分半ながらも美しいコーラスと変幻自在のDennisのシンセサイザーが縦横無尽に活躍し、これらをバックにJYがドラマティックに歌い上げる力作で、ここでアナログ盤はA面の最後になります。
裏返したB面からはヘヴィーでハードな曲が立て続けに登場します。まずは第1弾シングルとしてカットされたTommyの歌う”Blue Collar Man (Long Nights)”です。現在でもライブでさかんに演奏される名曲で、1978年11月18日付で21位を記録するヒットとなりました。Tommyの歌うStyxの楽曲としては、この時点では最高位でした。2000年にリリースされたREO Speedwagon(REOスピードワゴン)とのジョイントライブを収録したライブ盤”Arch Allies: Live at Riverport“ではジャムセッションも含めて”Blue Collar Man (Long Nights)”が3曲も収録されています。
7曲目にあたる次の”Queen of Spades“はJYのヘヴィーさとDennisのメロディアスさが見事に融合したナンバーです。Dennisの歌声とJYのパワフルなギター・ソロ、そして美しいコーラスで、Styx風のプログレッシブ・メタルともとれます。
続く8曲目は導入部の”Oh Mama, I’m in fear for my life from the long arm of the law~”で始まり、Dennisの”Yeah!のかけ声でメロディがスタートする”Renegade“です。リード・ヴォーカルをTommyが、リード・ギターをJYが担当します。サード・シングルとしてカットされ、1979年6月9日付で16位を記録し、”Blue Collar Man (Long Nights)”を追い抜いてこのアルバムからのシングルでは最もヒットしたナンバーになりました。このように本作からカットされたシングルは、すべてTommyがリード・ヴォーカルをとる楽曲が選ばれたことから、Tommyが”Crystal Ball”より加入して以降、Tommy Shaw色の濃い最初のアルバムとして受け止められました。
そして9曲目にしてタイトル曲”Pieces of eight“の登場です。Dennisの歌声にのせて、Styxのプログレサウンドが存分に楽しめるドラマティックなバラードナンバーです。そしてTommyの”Aku-Aku”と囁くインストゥルメンタル後奏曲、”Aku-Aku“へと流れていきます。この”Aku-Aku”は、正確にはイースター島を探検したノルウェーの探検家トール・ヘイエルダール(1914-2002)の航海記『Aku-Aku』からそのタイトルがとられたインストゥルメンタル・ナンバーで、その言葉はイースター島で話される東ポリネシア系ラパ・ヌイ語で”霊”を表します。
アルバム”Pieces of eight”は1978年12月2日付Billboard200アルバムチャートで6位を記録、92週チャートインしたロングセラー・アルバムとなりました。前作”The Grand Illusion”同様、アメリカではトリプル・プラチナ・ディスク、カナダでもプラチナ・ディスクに認定され、Styxはアメリカン・プログレ界での不動の地位を確立していきました。
しかし、Styxは次の段階に進むため、これまでのハード・ロック/プログレッシブ・ロックの音をやや抑えて、さらに馴染みやすい音へ挑戦することになります。それが1979年も終わりが近づいた時期、願ってもない大記録、つまりBillboard HOT100シングルチャートの1位制覇を遂げることになるのです。ここからの話はおそらく12月頃にご紹介できると思います。それまでしばしお待ちを。
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