10月19日は何に陽(ひ)が当たったか?
1979年10月19日は、アメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)の9枚目のスタジオ・アルバム、”Cornerstone(邦題:コーナーストーン)”がリリースされた日です。前作”Pieces of Eight(邦題:古代への追想)”までのStyxサウンドとはガラリと変化させたアルバムです。アメリカのみならず、ヨーロッパでもヒットしたアルバムとなりました。実は9月1日のブログでは、”Pieces of Eight“の後の状況を、”Cornerstone”からのシングル”Babe(邦題:ベイブ)”が最高ランクに立った、12月に話すとお伝えしましたが、予定を変更して本日のアルバム・リリース日にてお話ししたいと思います。
1970年代後半より、パンク・ロックが台頭し、さらにパンクから派生したニュー・ウェイヴがより活性化して、ロックも多様化していく傾向にありました。すると、それまでのハード・ロックやプログレッシブ・ロック、アート・ロック、サザン・ロックなど、じっと音楽に耳を傾けるようなロックは、世代交代や1973年の石油危機による不況などの要因も重なって退潮著しくなり、特に60年代から活躍してきたロック・ミュージシャンはターニングポイントに迫られました。ポップス全体の傾向にしてもディスコ・サウンドが主流であり、Styxと同じイリノイ州シカゴ出身のブラス・ロック・グループ、Chicago(シカゴ)も1979年にリリースした11枚目のスタジオ・アルバム”Chicago13(邦題:シカゴ13)”でディスコを大胆に取り上げるなどして奮起しました。またアメリカのワイルドなロック・グループ、Doobie Brothers(ドゥービーブラザーズ)もMichael McDonald(マイケル・マクドナルド)加入後、”Minute by Minute(邦題:ミニット・バイ・ミニット)”のような都会感漂う洗練されたAORアルバムを1978年末にリリースしたりなど、思い切った方向転換を行っています。
イギリスにおいてもプログレッシブ・ロック・グループの方向転換は顕著と化し、 例えばEmerson, Lake & Palmer(エマーソン、レイク&パーマー。ELP)による1978年リリースの”Love Beach(邦題:ラヴ・ビーチ)”や、Yes(イエス)による同じく1978年リリースの”Tormato(邦題:トーマト)”、そして1979年においてもSupertramp(スーパートランプ)の”Breakfast in America(邦題:ブレックファスト・イン・アメリカ)”といった、独自のプログレッシブ・ロック路線を残しながらも、ソフトなポップ・ロックを押し出す楽曲も多数見受けられました。
こうした60~70年代に一時代を築いたロック・グループが、新たな聴衆を求めて、多様化するロックの渦に巻き込まれながらもそれぞれのオリジナリティーを求めて、挑戦を続けていくのでした。Styxも次のアルバムは”挑戦“になるのですが、2009年に語ったDennis DeYoungによれば、はじめての英国ツアーで、ロック・グループとしてこれまで行ってきた活動や内容の批判を受けたことで、それならばStyxのサウンドを変えてみようと思いついたと述べています。
レコーディングはこれまでシカゴのParagon Recording Studiosでしたが、今作よりシカゴ南西にあるオーク・ローンのPumpkin Studiosにて行われることになりました。Pumpkin Studiosは、1974年にStyxの4作目”Man of Miracles(邦題:ミラクルズ)”でエンジニアに関わったことで縁のあったGary Loizzoが創設したスタジオです。Styxのセルフ・プロデュース、Rob KingslandとGary Loizzoのエンジニアリング、Ted Jensenのマスタリングで制作された”Cornerstone”ですが、デビューからこれまで数々のプロダクションに携わったBarry Mrazとは、サウンドの路線変更の意味かレコーディングスタジオの変更からか、前作でもって決別しています。
レコーディングを終え、陽の当たった1979年10月19日にて、ついにStyxの9枚目のスタジオ・アルバム、”Cornerstone(邦題:コーナーストーン)”がリリースされました。ジャケットに記されている四角い銀色の物体こそ”コーナーストーン(=建物の起工の期日や言葉を刻み込んだすみ石、礎石)”であり、故郷シカゴに接するシンボル、ミシガン湖をはじめとする五大湖が刻まれています。
さて、トラック・リストは以下の9曲が収録されました。
A面(アナログ)
- “Lights(邦題:ライツ)” Tommy, Dennis作。
- “Why Me(邦題:ホワイ・ミー)” Dennis作
- “Babe(邦題:ベイブ)” Dennis作
- “Never Say Never(邦題:ネヴァー・セイ・ネヴァー)” Tommy作
- “Boat on the River(邦題:ボート・オン・ザ・リヴァー)” Tommy作
B面
- “Borrowed Time(邦題:虚飾の時)” Tommy, Dennis作
- “First Time(邦題:愛の始まり)” Dennis作
- “Eddie(邦題:エディー)” JY作
- “Love in the Midnight(邦題:ラヴ・イン・ザ・ミッドナイト)” Tommy作
非常に挑戦的かつ冒険的なサウンドで、Styxは70年代最後を飾りました。これまでの8作品に見られたヘヴィーな要素はほとんどそぎ落とされ、全体的にコンパクトでどの世代層にも馴染めるポップな楽曲展開に、当時の聴者は非常に驚かれたのではないでしょうか。Chicago、Doobie Brothers、Yesらが施した大胆な路線転換と同様に、おそらく当時のStyxファンは評価が大きく分かれたのではないかと思います。しかしポップなロックにおけるStyx最大の武器はヴォーカルです。Dennis、Tommy、JYのタイプの異なる歌声が一際磨きがかかり、しかも絶妙のコーラス・ワークが本作において前面に押し出されています。本作の特徴は”歌“および”声“が際立っていることです。結果的にこのアルバムが11月24日付Billboard200アルバムチャートで最高位2位を記録してダブル・プラチナに輝き、イギリスもUKアルバムチャートに初めてチャートイン(36位)、南半球でもニュージーランドのアルバムチャートで14位を記録し、ドイツBVMIでゴールド・ディスクに認定されるなど、インターナショナルな人気アルバムになったことは事実であり、シングル・カットされた”Babe“が1979年12月8日付Billboard HOT100シングルチャートで2週続けて初の全米1位を獲得する(UKシングルでも6位)、文字通りStyxの代表曲として永遠にロックの歴史に刻まれる栄光を勝ち取ったことは事実なのです。”Babe”の後もシングルは売れ続き、”Why Me(Hot100:26位)”、”Borrowed Time(Hot100:64位)”がアメリカでシングル化されてチャートを記録しました。
“歌“と”声“を重視した他、本作では管楽器を多用していることも大きなポイントです。Styxでは過去においても1973年の3作目”The Serpent Is Rising(邦題:サーペント・イズ・ライジング)”収録の”22Years“ではStyxの生みの親、Bill Trautがサックスを吹くパートがある他、”Man Of Miracles“収録の”Man Like Me“でも地味にサックスが導入されてはおりましたが、どれもロック色が強くサックスは控えめでした。本作”Cornerstone”では、サックス奏者Steve Eisen(スティーヴ・アイゼン)がクレジットされ、作曲家、ピアニスト、アレンジャーなど様々な肩書きを持つEd Tossingが管楽器およびそのアレンジを担当しています。
TommyがヴォーカルをとるA-1″Lights“は、StyxらしいDennisのシンセサイザーを効かせたイントロですが、メロディやサビでは以前のハードさは薄れています。間奏部分でホーン・セクションとJYのギター・ソロが掛け合っており、ポップではありますが精巧なテクニックで魅惑されます。そして最後は持ち味のドラマティックなコーラスで締めてフェイドアウトしていきます。1曲目から大変な名曲が聴かれる、Styxのサウンドの幅が一気に膨張したかのような圧倒ぶりです。
“I Guess We Used To Be ~”とDennisの歌声で始まる力強いA-2”Why Me“では、間奏部分でSteveのサックス・ソロを聴くことができます。しかも今度はJYのギター・ソロとの合わせ技、非常に聴き応えがあります。バック・コーラスでの”Ah~Stop!”も絶妙で、この曲の大きなアクセントになっています。サビでの”Hard times Come , hard times go~”および”Life is Strange , and so unsure~”で聴くことができるTommyのハイ・トーンかつある意味女性的な優しさのあるバック・ヴォーカルが非常に印象的で、メインヴォーカルをとるDennisの馬力ある歌声とのコントラストが非常に美しいナンバーです。
Styxのみならず、70年代のポップスを代表する名バラード、A-3”Babe“は、その誕生秘話をかつてブログでご紹介しましたが(こちら)、詳細やチャートなどは1位を獲得した12月にご紹介したいと思います。言うまでもなく、サビのコーラスは比類ない美しさであり、このアルバムのハイライトと言えます。
A-4″Never Say Never“はTommyがヴォーカルをとった、歯切れ良い軽快なロックンロール・ナンバーです。”Never,never,never say never~”のコーラスもさることながら、後半の盛り上げ部分でのDennisの”~never said these things say before~”とバックで歌うパートも印象的です。本作では圧倒的に地味な収録曲ですが、こうした楽曲も非常に重要です。たとえば次作”Paradise Theatre(邦題:パラダイス・シアター。1981年)”でTommy作およびリード・ヴォーカルの”She Cares(邦題:愛こそすべて)”という軽めのロック・ナンバーが収録されていますが(Steve Eisenのサックス・ソロが聴ける)、この”She Cares”も”Never Say Never”も同様に、各アルバム内では地味な存在なのですが、前後の収録曲に花を持たせつつも、自身の曲もそれぞれ口ずさみやすく耳なじみが良い、非常に聴き応えがある楽曲であり、アルバムにはなくてはならない傑作品なのです。
A面最後を飾る楽曲A-5″Boat on the River“はTommyの作品で、Tommyがリード・ヴォーカルをとる、本作の中でも特に異彩を放った全編フォーク・サウンドのナンバーで、ヨーロッパでシングル化され大ヒットを記録、日本でもシングル・カットされた楽曲で、日本でのTommyの存在を一気に高めたと言っても良いでしょう。ライブ等では、メンバーが椅子に座りながら、Dennisがアコーディオン、リード・ヴォーカルをとるTommyがマンドリン、Chuckがコントラバス(ダブルベース)、JYがアコースティック・ギター、Johnがタンバリンとバスドラを奏でた映像が特によく知られています(映像はこちら。Youtubeより)。Tommyはこの曲でマンドリンだけでなくオートハープも奏でており、メロウかつ哀愁感ある美しい楽曲に仕上がっています。”Boat on the River”はヨーロッパ各国でチャート上位に駆け上り、ドイツのメディアコントロール・シングルチャートでは5位を記録し、とりわけスイスのチャートでは1位を獲得してます。
B-1″Borrowed Time“はイントロがプログレっぽく、メロディもノリの良いハード・ロック調ですが、やはりコーラスが華やかな分、馴染みやすく親しみを受けやすい楽曲です。その後のCornerstone Tour(通称”The Grand Decathlon tour”)では、この”Borrowed Time”でオープニングを飾っておりました。個人的には全米で64位に終わるようなナンバーではないと思いますが、インパクトのある”Babe”の後だけに、幾分仕方ないかもしれません。B-2″First Time“はその”Babe”に匹敵するバラード調のナンバーで、全米でのエアプレイもアルバムリリース当初から上々であり、実は”Babe”に続くセカンド・シングル候補として挙がり、レーベルA&Mもシングル化を了承しました。しかしTommyがバラードの次にバラードを送り出すのに懸念し、この曲のセカンド・シングル化に反対してグループ内の意見が分かれてしまい、挙げ句の果てにはTommy(もしくはDennis?)の脱退騒動へ発展したため、結果的にシングル・カットを見送って代わりに同じくDennis作の”Why Me”をカットして事なきを得たというエピソードがあります。”First Time”を作ったDennisからしてみれば、相当の自信があったのでしょう。確かに何度も聴きたくなる名曲ですが、個人的には前述の通り”Babe”のインパクトが衝撃的なだけに、見送って正解だったかもしれません。ちなみにこのナンバーおよびB-4”Love in the Midnight“で聴かれるストリングスを担当したのはArnie Roth(アーニー・ロス)という音楽家で、近年ではアニメ映画の「バービーシリーズ」の音楽担当で知られます。
デビューからののStyxファンにしてみれば、JYが本作中唯一のリード・ヴォーカルをつとめるB-3″Eddie“の登場は嬉しかったのではないでしょうか。本アルバム、最もハードロック色の濃い作品で、間奏部分のシンセ・ソロ、ギター・ソロ、Johnのスピーディーな連打など、聴き所満載です。エンディングの逆再生らしき音声のフェイド・アウトしてフェイド・インする手法も凝ってます。フェイド・アウトしてフェイド・インする手法は、Dennis DeYoungの1984年のソロ作品”Desert Moon(邦題:デザート・ムーン)”収録の”Boys Will Be Boys”などで聴くこともできます。なお、”Eddie”の名前はEdward “Ted” Kennedy(エドワード・ケネディ。1932-2009。故ジョン・F・ケネディ元大統領の末弟)を指すらしく、かつて彼が引き起こしたスキャンダルなどが尾を引き、70年代は大統領選に出馬できなかった経緯があり、折しも”Cornerstone”がリリースされた頃は、次の大統領選(1980年11月)からほぼ1年前にあたり、”Eddie”という警告ソングでもって、次の大統領選にも出馬しないよう懇願したとされています。
そしてアルバム最後を飾るB-4″Love in the Midnight“の登場です。Tommyの作品で、彼がリード・ヴォーカルをつとめています。アルバム中最もプログレがかったナンバーですが、プログレになりすぎずかつポップになりすぎず、柔と剛、慎ましさと劇的さを兼ね備えた作品で、確かにポップな中にも間奏部分におけるDennisのスピーディーなシンセ・ソロやJYのドラマティックなギター・ソロは圧巻の一言です。個人的にはエンディングの”~ looking for love….”とTommy、Dennis、JYのグループの全ヴォーカリストが順番に輪唱のごとく熱唱しているパートが印象的で、このアルバムの大きなポイントである”歌”と”声”を重視した象徴的なパートだと思います。
この”歌“と”声“による挑戦をものの見事に結果で果たせたのが、1980年1月に行われた6th People’s Choice Awardsで、”Babe”がFAVORITE NEW SONG(AGE 12-21)として受賞され、さらに1980年2月に行われた22nd Annual Grammy Awardsでは、受賞はEaglesに持って行かれましたがBest Rock Performance by a Duo or Group with Vocalにおいて、Dire StraitsやThe Blues Brothersら名だたるヒット・アーチストと共にノミネートされたのです。さらにはRob KingslandとGary Loizzoのエンジニア・コンビもこの回のNon-Classical Best Engineered Albumにノミネートされるなど、受賞はならずとも選考に残ったことで、Styxの実力が認められたのでした。
この挑戦は、1981年リリースの、初めての全米アルバムチャート制覇を果たす次作”Paradise Theatre”において、見事に結実することになるのでした。
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