3月8日は何に陽(ひ)が当たったか?

1975年3月8日は、アメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)の2枚目のアルバム、”Styx II(邦題:「スティクスⅡ」,他「黄泉の国より」,「レディ/スティクス・セカンド」など)”が、Billboard200アルバムチャートで、同年同月同日付より2週連続で最高位20位を記録した日であると同時に、このアルバムからカットされたシングル、”Lady(邦題:憧れのレディ)”もBillboard HOT100シングルチャートで同年同月同日付より2週連続6位を記録し、1973年7月リリースから、2年越しのヒットとなった日です。この大事な1975年の末にStyxはインディ・レーベルからメジャー・レーベルへの移籍を決意していくわけで、Styxの歴史を語る上でも非常に重要な作品と言えます。このブログではStyxのスタジオ・アルバムを一作ずつ紹介しておりますが、遅ればせながら”Styx II”を改めて探っていきたいと思います。アルバム”Styx II”およびシングル”Lady”のチャート・アクションはこちらの下部にございますのでご参照下さい。このブログでの80年代までのStyxのスタジオ・アルバムのご紹介は、この”Styx II”がファイナルとなります。
前述の通り、”Styx II”がヒットしたのは1974年末から1975年の春先ですが、アルバム自体のオリジナル・リリースは1973年7月であります。優秀なソングライターの楽曲提供ででほぼ占められた前作”Styx(邦題:「スティクスⅠ」または「スタイクス」)”はBubbling Underチャート内では健闘したものの、200位入りは果たせませんでした。所属先のWooden Nickelレーベルでは、次に制作する”Styx II”では、収録する楽曲をメンバーのソングライティングに期待しました。
1972年末に前作からのシングル・カット、”Quick Is The Beat of My Heart”がリリースされました。このシングルは、のち”Styx II”に収録される”I’m Gonna Make You Feel It”をカップリングとしてリリースされました。そしてシングルリリース時には、Styxは当時のスタジオであるParagon Recording Studiosにて”Styx II”の制作に当たっていました。グループメンバーはDennis DeYoung(デニス・デヤング。key,vo)、John Panozzo(ジョン・パノッツォ。drums)、Chuck Panozzo(チャック・パノッツォ。Bass)、John [JC] Curulewski(ジョン・クルルウスキー。gtr,key,vo)、James [JY] Young(ジェームズ・ヤング。gtr,key,vo)の5人です。
プロデュースはJohn Ryan、エグゼクティブ・プロデューサーはStyxの産みの親であるBill Traut、エンジニア陣はParagon Recording Studiosの設立者であるMarty Feldman(マーティ・フェルドマン)と、Foodという60年代サイケデリック・バンドのドラマーをつとめたBarry Mraz(バリー・ムラッツ)と、前作同様のスタッフでレコーディングが行われました。ソングライティングはDennis作とJC作の楽曲が収録され、JY作の楽曲は収録されませんでした。これはStyxでのオリジナル中心のスタジオ・アルバム(2005年リリースのカバーアルバム” Big Bang Theory”を除く)ではこの”Styx II”が唯一、JYがソングライティングに関わっていない作品です。

ジャケットはWooden Nickel時代で使用された”Styx”のロゴ・サインを表紙いっぱいに拡大し、ロゴの枠線だけを残して中を切り抜き、そこにメンバーの演奏風景写真を載せております。”S”の部分にDennis、”t”の部分にChuck、”y”の左側にはすでに髭を蓄えたJY、右側にはJohn、そして”x”にはJCが写っています。スリーブ・デザインのジャケットの写真はMurray Laden、アートワークはBob Milesという人物が担当で、Bobは裏ジャケットに、グループの本来の意味である”三途の川”をイメージした幻想的なデザインが施されております。1975年の再リリースでは表ジャケットの切り抜き部分に”三途の川”を入れたヴァージョンもあり、2005年リリースのWooden Nickel時代のベスト盤”The Complete Wooden Nickel Recordings”での内ジャケットではこのレーベルからリリースされた4枚のアルバムの表ジャケットを載せておりますが、”Styx II”の場合は”三途の川”ヴァージョンが使われておりました。
ちなみに、1979年から1980年にかけてRCAレーベルから再発されました時は、アルバムタイトルも”Lady“となり、ジャケットも天高くそびえるお城から平地へとらせん状に山道が下り、山肌に”Styx”や”Lady”と描かれ、目の前の車道にオープンカーが走るといったモダンなイラストに差し替えられています。
さて、曲目紹介です。
A面(アナログ盤)

  1. You Need Love(邦題:ユー・ニード・ラブ)”・・・Dennis作
  2. Lady(邦題:憧れのレディ)”・・・Dennis作
  3. A Day(邦題:ア・デイ)”・・・JC作
  4. You Better Ask(邦題:ユー・ベター・アスク)”・・・JC作

B面

  1. Little Fugue in G(邦題:リトル・フーガ)”・・・Johann Sebastian Bach作
  2. Father O.S.A.(邦題:ファーザー・OSA)”・・・Dennis作
  3. Earl of Roseland(邦題:ローズランドの伯爵)”・・・Dennis作
  4. I’m Gonna Make You Feel It(邦題:アイム・ゴナ・メイク・ユー・フィール・イット)”・・・Dennis作

Wooden Nickel時代のStyxの代名詞となるクラシックのカバーは、本作ではバッハを起用しており、この曲のためにDennisはシカゴのセント・ジェームス大聖堂のパイプ・オルガンを使ってレコーディングしました。これを縁に、1978年のアルバム、”Pieces of Eight(邦題:古代への追想)”収録の”I’m Okay(邦題:アイム・OK)”でも同聖堂のパイプ・オルガンを使用しています。
A-1の”You Need Love”は軽快なハード・ロック・ナンバーで、JYのワイルドな歌声でアルバムの幕を開けます。サウンドはヘビーですが、サビはStyxの持ち味である美しいコーラスなので、馴染みやすい楽曲です。初回リリースでは次作”The Serpent Is Rising(邦題:「サーペント・イズ・ライジング」。または「サーペント・イズ・ライジング/スティクスⅢ」)”に収録される”Winner Take All”とカップリングでシングルカットされましたがノンアクションで、1974~5年の再発ヒット時(その内容はこちら。下部にございます)でのリカットでは本作A-4とのカップリングで、1975年5月17日から2週連続88位を記録しています。
A-2はStyxの名を世に広めた不朽の名作であり、リード・ヴォーカルを担うDennisが妻Suzanneに捧げたラブ・ソング、”Lady“の登場です。前半Aメロのピアノをバックにバラード進行、1番サビ以降はややロックになり、2番サビがどこかしらMaurice Ravel(モーリス・ラヴェル)の”Boléro(ボレロ)”にも通じるドラマティックさが加わり、さらにバックのギター・ソロで盛り上げ、華やかに終わります。1995年8月22日にA&Mレーベルからベスト盤”Greatest Hits(邦題:スティクス・グレイテスト・ヒッツ)”をリリースする際に、このナンバーを収録するために、レーベル所有権の関係から、あらたに録音しなおしてリリースされました。タイトルは”Lady’95(邦題:レディ’95)”で、1997年5月リリースの再々結成ライブ盤、”Return to Paradise(邦題:リターン・トゥ・パラダイス)”でも歌われました。
ちなみに”Lady”のシングルカットでは、初回リリース時ではA-4とのカップリングで、全米6位を記録した74年11月のリリースでは、前作収録の”Movement for the Common Man”の第1楽章”Children of the Land”とのカップリングでリリースされました。
A-3の”A Day“はStyxの全オリジナル・アルバム収録の、組曲形式を除く単品ナンバーでは、現時点で最長の、8分19秒の長尺曲です。JCがメイン・リード・ヴォーカルを披露する初めてのナンバーであり、JCがソングライティングしたお披露目のナンバーです。幻想的なメロディで、間奏はややジャズ寄りのインストゥルメンタルを展開します。2番でのJCが歌う”Pondering the motion of time”の部分で、最後の”time”と発したJCの声が高音に上がりながら反響(残響)していき、その声が知らぬ間にギターの音色に変わっているように聞こえるテクニックは見事の一言です。
A-4の”You Better Ask“は前述の通り、2度のシングルでカップリングされた実績を持つナンバーで、これもJCの作品ですが、A-3とは打って変わってシングル向きのポップなロック・ナンバーです。JCはA-3ではやさしい声色でどちらかと言えば高いキーで歌っておりましたが、この作品は同じヴォーカリストかと思うぐらいに唸るような歌声を聞かせてくれます。この曲は、前作収録の”Quick Is The Beat of My Heart”、次作収録の”Jonas Psalter”同様、エンディングに別の曲を挿入させる手法を採り入れることによって、本編とは違った流れで終わり、変わった余韻を残すところが特徴です。この”You Better Ask”では、あのFrank Sinatra(フランク・シナトラ。1915-98)の1966年の大ヒット曲で知られる”Strangers in the Night(夜のストレンジャー)”と、大笑いする効果音をエンディングに導入しています。
B-1″Little Fugue in G“はバッハの有名な”フーガ ト短調 BWV 578″、いわゆる”小フーガ”をDennisのパイプ・オルガンでじっくり聴かせてくれます。これをプロローグに本作の目玉でもあります7分の大作、B-2の”Father O.S.A.“へ途切れなく移ります。Dennisがリード・ヴォーカルをとります。
「O.S.A.」とはカトリック修道会である「Order of St.Augustine(訳:聖アウグスチノ修道会)」の略語ですが、Dennis、Chuck、Johnはカトリック信仰者で、StyxがまだThe Tradewinds時代にベーシストのChuck Panozzo(当時はリズムギター担当)は神学校に通うため短期間だけ離脱していたり、さらに高校生時代はChuck、John Panozzo、そしてのちにソングライティングにも関わるDennisの親友であり、義兄にあたるCharles Lofrano(1949-2010)の3人はシカゴのMendel Catholic High School(1951-88)の通学歴もあり(いわゆる遺伝の法則を発見したオーストリアのMendelはO.S.A.出身です)、この高校で”O.S.A.”の教義を学んだこともこの作品に影響していると思われます。
Styx風のプログレッシブ・ロックが充実した作品であるこの”Father O.S.A.”は個人的にも本作で最もよく聴いた作品で、ギターの音色中心のイントロの後、前半は静かな流れで進みますが、間奏のキーボード・ソロが終わった後半から盛り上がり、特にエンディングに懸けてのインストゥルメンタル・パートは圧巻です。特にJYとJCのダブル・リード・ギターの重ね技と、Johnによるドラムの超高速連打は聴きもので、前作からの成長が一瞬で分かる傑作となっております。特にドイツではバッハ絡みが関係したのか、1973年にシングルとしてのリリース歴があり、A面は4分13秒の”Little Fugue In “G” & Father O.S.A. (Part 1)”、B面は4分25秒の”Little Fugue In “G” & Father O.S.A. (Part 2)”のタイトルとなっております。
B-3の”Earl of Roseland“は軽快なハード・ロック・ナンバーで、Dennisがリード・ヴォーカルを担当しています。シカゴ市内では南方にあたるRoselandはメンバーのDennis、John、Chuckの出生地です。ちなみに1999年リリースの“Brave New World(邦題:ブレイヴ・ニュー・ワールド)”でもDennis作の”Goodbye Roseland“というナンバーでも故郷のRoselandを歌っています。
ラストを締めくくるB-4の”I’m Gonna Make You Feel It“はJYが歌うロック・ナンバーで、2分半弱にもかかわらずヘビーで生き生きした曲構成には度肝を抜かされます。”You Need Love”同様、コーラスが美しいので、それほどヘビーには聞こえません。前述にもあるように、アルバム・リリースに先駆けて”Quick Is The Beat of My Heart”とのカップリングでリリースされましたが、チャートインとはなりませんでした。”Brave New World”に収録され、シングルにもなった”Everything Is Cool”のイントロ最前には過去のStyxの楽曲らしきものがチラホラと聞こえる仕掛けがありますが、その中にこの”I’m Gonna Make You Feel It”のサビの部分が挿入されています。このナンバーは1999年リリースの”Best of Styx 1973-1974″ではなぜか収録からはずれましたが、これを除くWooden Nickel時代のベスト盤では決まって収録されています。
2016年でのデジタルリマスター盤のリイシューでは、ボーナス・トラックとして、”Unfinished Song(邦題:アンフィニッシュト・ソング。Dennis, Charles Lofrano作)”も収録されています。Dennisが歌う短尺曲ながらもドラマティックなバラードで、随所にメロトロンも効果的に使われています。このナンバーは当時”The Serpent Is Rising”からのシングル、”Young Man”とのカップリングで収録され、アナログ盤では1979~80年にRCAからの再リリースによる”Man of Miracles(邦題:ミラクルズ。当時原題は’Miracles’と改題)”に収録されたきりで、この”Man of Miracles”のCD化に伴い収録から外されてしまったため、結果”Unfinished Song”は2005年リリースのベスト盤”The Complete Wooden Nickel Recordings”に収録されるまでは、”幻のCD未収録ナンバー”として重宝されたものです。
陽の当たった1975年3月8日に最高位を記録した”Lady”のTop10入りヒット、さらにはアルバムもTop20入りのヒット(詳細はこちらの下部)後、1975年末にA&Mへ移籍が決まり、1975年12月1日には”Equinox(邦題:分岐点)”をリリースすることになるのですが、実を言うと2年越しの”Styx II”および”Lady”のヒットによる人気上昇の勢いを付けたことでA&Mへの移籍が決まったわけではなく、Wooden Nickelからリリースされた1974年の4作目”Man of Miracles(邦題:ミラクルズ)”のリリース時点で移籍を考えていたと言われております。その理由として、StyxのメンバーはこれまでのWooden Nickelレーベルからのプロモートやサポートの弱さに難色を示していたためと言われております。具体的には、1作目”Styx”収録のデビュー曲”Best Thing(邦題:ベスト・シング)”がそれまで唯一チャート・インしたシングルということで、”Man of Miracles”の初回リリースで再び収録したこと、”Man of Miracles”からの新曲をシングル・カットせず、”Lady”をシングルに選択したこと、よもやの”Lady”のヒットを受け、便乗して”You Need Love(前述。1975年4月)”、さらには”Best Thing(1975年6月の再リリース。B面は’Havin’ A Ball’)”、また”Lady(1975年11月。B面は’Children of the Land’)”のシングル再々発を強行したといった経緯にみられるように、過去のヒットした作品から再発を繰り返した、いわば過去の栄光にすがりついた商業優先主義にもとれる、当時のWooden Nickelの販売戦略によって、Styxとレーベル間に不協和音が生じてしまったとされており、しかも”Lady”の6位記録後は”You Need Love”の88位のみにとどまったことからWooden Nickelの販売戦略はお世辞にも成功したとは言えず、結果的にメンバーは移籍に踏み切ったとされています。A&M移籍についてStyxはWooden Nickelとは裁判沙汰にまで発展し、移籍しようとしたStyxの契約違反として違約金が発生したと言うことですが、結果的に移籍して以降はStyxの全盛期が訪れ、成功を楽しむことができたわけです。Wooden Nickelは1977年、ちょうど黄金期の幕開けを告げる”The Grand Illusion(邦題:大いなる幻影)”のA&Mからのリリース期に、Wooden Nickel時代の全4作をチョイスしたベスト盤”Best of Styx(邦題:レディ・スティクス・ベスト)”をリリースしたのを最後に事業を停止、権利は親会社のRCAに移されました。

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