8月16日は何に陽(ひ)が当たったか?

1945年8月16日は、アメリカのレコード・エンジニア、Gary Loizzoの生誕の日です。Styx(スティクス)や、メンバーだったDennis DeYoung(デニス・デヤング。Key,vo)のエンジニアとして知られました。
Garyは1960年代に活動したイリノイ州のロック・グループ、The American Breed(改名前はGary & The Knight Lites)のリード・シンガー兼ギタリストとして活躍しました。中でも1967年12月にリリースされたシングル、”Bend Me, Shape Me“はBillboard HOT100シングルチャートで5位、UKチャートでも24位まで上がる大ヒット曲となりました。このThe American Breedは1970年に活動を終え、メンバーの一部で結成したバンドはRufus(ルーファス)として活躍、Chaka Khan(チャカ・カーン)をヴォーカリストに活躍していきます。一方Garyは、The American Breedの活動終了後、創設した”Pumpkin Studios“にてレコーディング・エンジニアおよびプロデュース業に励むことになります。
1974年、まだWooden Nickelレーベル時代のStyxと出会い、4枚目のスタジオ・アルバム”Man of Miracles(邦題:ミラクルズ)”のエンジニアをつとめました。”Evil Eyes”や”Christopher, Mr. Christopher”など、このアルバムでもStyxのプログレッシブ・ロックが展開されますが、前作”The Serpent Is Rising(邦題:サーペント・イズ・ライジング)”にはない効果がGary流によって産み出されます。まず、Golden Lark“と”A Song for Suzanne“の曲間をつなぐために、Garyは雷雨の音響効果を巧みに導入して臨場感を持たせ、ドラマティックに盛り上がっていきます。また、前作”The Serpent Is Rising”で見せた”暗さ”はそぎ落とされ、より聴きやすいサウンドになっています。それは”Rock & Roll Feeling”や”Havin’ a Ball”、”A Man Like Me”などの軽快でポップなナンバーが入ることによってアルバム全体を通して心地よく聴くことができるのです。これはGaryのエンジニアリングとしての駆使した音響技術で、Styxの元来の持ち味であるハードなエッセンスと美しいコーラスを失わせないまま、ホーンを導入するなどポップな感覚的要素を加えることによって、女性リスナーが喜ぶような、明るく格好いい、何度も聞きたくなるサウンド効果が得られ、アルバム全体のバランスが程よく調和されていくのです。
Garyの優れたエンジニアリングにより、”Man of Miracles”は前作”The Serpent Is Rising”よりも明るいアルバムになり、チャートの上でもBillboard200アルバムチャートでは前作の192位から154位まで記録を更新しました。
なお、当時のStyxは人気をまだ勝ち得るところまでには至っていない時期で、1975年にシングル”Lady(邦題:憧れのレディ。もともとは1973年の作品)”が大ヒットを記録する前の話です。
GaryのStyxへのエンジニア業はこのあとしばらく遠ざかりますが、その間のStyxは”Lady”のヒット(HOT100で6位)で大手A&Mレーベルへの移籍や、メンバーチェンジによるTommy Shaw(トミー・ショウ。gtr,vo)の加入があり、成長を遂げていきます。そして1979年、イリノイ州の”Pumpkin Studios”にて、Garyは再びStyxのエンジニアリングを、もう一人のエンジニアであるRob Kingslandと共同で担当することになりました。Robはあの1977年に飛躍のアルバムとなった7作目”The Grand Illusion(邦題:大いなる幻影。全米6位)”や、8作目”Pieces of Eight(邦題:ピーシズ・オブ・エイト~古代への追想。全米6位)”のエンジニアを手がけた人物です。Garyにとっては、Styxの人気絶頂にある中での、メンバーとの再会となったのです。そして彼は、Styxの絶頂期の音を確立させたRobと共に、絶妙のコンビネーションで新たなStyxのサウンドを創り出していくのです。
“Pieces of Eight”のプロモート活動を終えたStyxは、これまでのプログレッシブ・ロック/ハード・ロックの作風に区切りをつけ、さらなる進化を求めていました。長いツアーのため、Dennis DeYoungが会えない妻Suzanneへの想いを寄せて、Suzanneへのバースデー・ソングとして書いたと言われるバラード、”Babe(邦題:ベイブ)”を、一度はDennisがJohn Panozzo(ジョン・パノッツォ。drums)とChuck Panozzo(チャック・パノッツォ。bass)と共にデモとしてレコーディングしたのですが、これをメンバーのTommyとJames [JY] Young(ジェームズ・ヤング。guitar)が非常に気に入り、グループとして次のアルバムに収めないかと提案した結果、Dennisも承諾しました。そこで”Babe”の中間部におけるTommyのギター・ソロを導入させますが、Garyらエンジニア陣の巧みなオーバーダビングによる効果でギターの音色は非常に美しくなり、サビのコーラスの美しさと相まって、珠玉のバラードとして完成されました。そしてこの”Babe”を収録した9枚目のスタジオ・アルバム、”Cornerstone(邦題:コーナーストーン)”が完成したのです。
“Babe”以外の収録曲でも、彼らのポップ・センスが非常に光る楽曲が揃いました。GaryとRobらエンジニア陣の駆使した、洗練された音の技術は、このアルバムで証明されました。エレキ・ギターの歪みを抑える反面、アコースティック系楽器やシンセサイザー、ホーン等を採り入れ、それらをStyxの持ち味である美しいコーラスと合わせることによって、新たなStyxのサウンドができあがったのです。また、”Man of Miracles”時代でのポップ要素の導入構想がここにおいても活かされた形となり、例えば唯一JYがヴォーカルを取る、アルバム中最もヘヴィーな”Eddie”が8曲目に収録されていますが、それまでの7曲のポップな楽曲とは極端に対照的な、ギター・ソロなど非常に力強く、JY独特のメタル風の歌声で構成された楽曲でありながら、普通に心地よく聴くことができ、まさに”音の魔力”を感じさせてくれます。
“Babe”はStyxにとって、初の全米ナンバー・ワン・シングルとなり、”Cornerstone”は全米2位を記録、ダブル・プラチナに認定されました。GaryとRobが創り出したこの魔法のようなサウンドは、1981年の”Paradise Theatre(邦題:パラダイス・シアター)”で頂点に立ち、全米制覇を成し遂げることになったのです。このアルバムでは、”Man of Miracles”の雷雨のように、解体工事、酒場のガヤといった効果音をここでも導入して、アルバム・コンセプトに立体感を持たせるテクニックを披露しています。
Garyは他にもDennis DeYoungの大半のソロ・アルバムのエンジニアリングを担当(1985-98)、またバック・ヴォーカルとしても参加しました。Dennis離脱後のStyxにおいても、2003年のCyclorama(邦題:サイクロラマ)以降ではエンジニアリングだけでなくメンバーと共同プロデュース作業にも加わり、その後のStyxを陰で支えていきます。
2015年に行われたStyxのアメリカンツアーではステージにGaryが招かれ、かつてのThe American Breed時代のヒット曲、”Bend Me, Shape Me”を披露し、会場は歓喜に包まれました。この模様は現ドラマーのTodd Sucherman(トッド・ズッカーマン。drums)がYoutubeでアップした映像で確認できます(この映像がこちら)。Styxにとって、Gary Loizzoは絶対的必要不可欠な存在となっておりました。
しかし、残念ながら2016年1月16日、Garyは膵癌により70歳で永眠し、音楽に満ちた生涯を全うしました。

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