11月30日は何に陽(ひ)が当たったか?
1974年11月30日は、アメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)の4枚目のアルバムでインディ・レーベル時代における最後のスタジオアルバム、”Man of Miracles(邦題:ミラクルズ)”が、Billboard200アルバムチャートにて最高位154位を記録した日です。
11月16日のブログにて、Styxのアルバムチャート・アクションにおける最初の順位アップを記録したアルバムとして取り上げましたが、今回は中身もたっぷりご紹介したいと思います。
当時のメンバーは、John Panozzo(ジョン・パノッツォ。drums)、Chuck Panozzo(チャック・パノッツォ。Bass)、Dennis DeYoung(デニス・デヤング。vo,key)、John [JC] Curulewski(ジョン・クルルウスキー。gtr,vo)、James [JY] Young(ジェームズ・ヤング。gtr,vo)の5人です。前作”The Serpent Is Rising(邦題:サーペント・イズ・ライジング)”でようやくアルバムチャートのランクインを経験した彼らは、これまでの Paragon Recording Studios(シカゴ)に代わって、イリノイ州テイズウェルのGolden Voice Studiosにて”Man of Miracles”のレコーディングを行いました。プロデューサーはカナダ人プロデューサーのJohn Ryan(ジョン・ライアン。1928–2010)で、エンジニアには後のStyxにとって必要不可欠な人物となるGary Loizzo(ゲイリー・ロワイツォ。1945-2016)が迎えられ、Styxと初対面を果たしました。ただし、本作は再発の際にB面1曲目の収録曲が差し替えられており、その1つとしてデビュー曲の”Best Thing(邦題:ベスト・シング)”が収められている場合がありました。この際はプロデューサー名義として、John Ryanに加えて、Styxの産みの親で所属レコード・レーベル、Wooden Nickel(ウッドゥン・ニッケル。活動期間1971-77。RCA傘下)設立者の一人、Bill Traut(ビル・トラウト。1929-2014)の名前もクレジットされました(B-1収録曲の変遷は後述)。
ジャケット・デザインはLeon Rosenblatt(クレジットはLee Rosenblatt)によるもので、タイトルの名にふさわしく、ミラクル・マンばりの男性が環のかかった星で何かを起こそうとしているイラストです。星が手に乗るぐらいなので、ミラクルの男は星よりも巨大な印象を受けます。
収録曲は以下の通りです。
A面(アナログ盤)
- “Rock & Roll Feeling(邦題:ロックンロール・フィーリング)”・・・ JY, JC作
- “Havin’ a Ball(邦題:ハビン・ア・ボール)”・・・JC,JY作
- “Golden Lark(邦題:ゴールデン・ラーク)”・・・DeYoung作
- “A Song for Suzanne(邦題:ア・ソング・フォー・スザンヌ)”・・・DeYoung作
- “A Man Like Me(邦題:ア・マン・ライク・ミー)”・・・JY作
B面
- “Best Thing(邦題:ベスト・シング)”・・・JY,DeYoung作
- “Evil Eyes(邦題:イーブル・アイズ)”・・・DeYoung作
- “Southern Woman(邦題:サザーン・ウーマン)”・・・JY, Ray Brandie作
- “Christopher, Mr. Christopher(邦題:ミスター・クリストファー)”・・・DeYoung作
- “Man of Miracles(邦題:マン・オブ・ミラクルズ)”・・・DeYoung,JY,Brandle作
さて、問題のB-1収録曲の変遷ですが、上記の収録リストは初回リリース盤のラインナップで、当時のシングル・カットは”Best Thing“でした(B面は”Havin’ a Ball”)。しかし2回目のリリースではこの”Best Thing”に代わり、アメリカのロック・グループThe Knickerbockersが1966年に20位(Billboard HOT100)を記録したシングルのカバーで、”The Serpent Is Rising”からのシングル・カット、”22 Years(邦題:22イヤーズ)”のB面に収録された”Lies(邦題:ライズ。Buddy Randell, Beau Charles作)”に差し替えられました。その後1979年から1980年にかけてはRCAレーベルから再発されましたが、この時はアルバム・タイトルも”Miracles(邦題:ミラクルズ)”と改められ、ジャケット・デザインも”ミラクルの男”から別のイラストに差し替えられましたが、そのイラストとは女性がプールサイドで腰掛けている絵と、砂漠に立つピラミッドらしき絵と、上空に巨大な飛行物の絵とが合わさったようなものでした。そして”Miracles”B面1曲目は、”The Serpent Is Rising”のもう1つのシングル・カット曲”Young Man(邦題:ヤング・マン)”のB面に収録された”Unfinished Song(邦題:アンフィニッシュト・ソング。DeYoung, Charles Lofrano作)”に差し替えられました。その後1990年によるCD化による再発では”Lies”に再び差し替えられるという複雑な経緯をたどっています。この頃はデビュー・アルバムの”Styx(邦題:StyxⅠ)”はCD化が遅れていたため、これに収められていた”Best Thing”は、CD化された”Best of Styx(邦題:レディ~スティクス・ベスト。1977)”でしか当時は聴くことができず、”Unfinished Song”にいたっては2005年にリリースされた、StyxのWooden Nickel時代のスタジオ・アルバムの全収録曲を収めた2枚組コンピレーション盤、”The Complete Wooden Nickel Recordings“に収録されるまでは、”幻のCD未収録ナンバー”として重宝されました。また”Unfinished Song”はStyxの2作目、”StyxⅡ(邦題:スティクスⅡ。1973)”の2016年デジタル・リマスターCD再発の際にBonus Trackとしても収録されました(2016年度の邦題:レディ/スティクス・セカンド+1)。
“Man of Miracles”は前作”The Serpent Is Rising”の暗い部分を吹っ飛ばしたような、どちらかと言えば若い女の子が喜ぶようなキャッチーで元気になるような明るいハード・ロック・ナンバーが多く、プログレ感は前作よりも半減した感があります。”StyxⅡ”や”The Serpent Is Rising”で、とりわけJCがヴォーカルをとるナンバーは、他のDennisやJYと比べると、やや憂いを帯びたなプログレ感があり、Styxのサウンドに耳馴染みのない人が聴くと気怠さが先行したかもしれませんが(私個人的にはJCの歌う作品は味があって大好きなのですが)、本作ではJCはバック・ヴォーカルがほとんどで、メインでヴォーカルをとる作品は収録されておりません。A&M移籍後の次作”Equinox(邦題:分岐点。1975)”では1曲(“Mother Dear。邦題:マザー・ディア”)でメインヴォーカルが復帰していますが、”StyxⅡ”や”The Serpent Is Rising”で聴かせてくれたシブい、ブルージーな味わいをもった歌声ではなく、キーを上げた、どちらかと言えばバックコーラス時に用いるヴォーカルでした。残念ながらこの”Equinox”を最後にJCはグループを脱退しています。
A-1、A-2、A-5は前述の女の子が喜ぶキャッチーなハード・ロック・ナンバーで、自然に身体を揺らして踊れるようなノリの良いサウンドです。特にA-5の”A Man Like Me”はサックスが登場していますが、”22 Years”でもサックスを吹いたBill Trautがノンクレジットで参加したのでしょうか?詳細は不明です。この3作品はJYがメイン・ヴォーカルですが、A-1,A-2はJCもJYと共にソングライティングに関わっています。
A-3とA-4はDennisの作品です。両曲間のブリッジには雷など嵐の効果音が使われ、Gary Loizzoの特徴が出ております。この2曲はDennisの歌声で、ゆったりとしたスローテンポのA-3(ある意味Queenっぽさも感じられる一品です)、そしてプログレがかったドラマティックなA-4の展開が印象的です。A-4の”Suzanne”とは、おそらくはDennisの愛妻Suzanne DeYoung(旧姓Feusi。1970年結婚)のことと思われます。
B-1の”Lies”は明るくポップな曲調で、Dennisの歌声に乗せて軽やかに進行するダンサブルなロック・ナンバーです。もう一つのB-1、”Unfinished Song”はうって変わってスローなテンポで、メロトロンをバックにDennisがドラマティックに歌い上げるナンバーです。どちらも3分以内の短いナンバーですが、シングルカットされた”Best Thing(こちらは3分13秒)”に匹敵する、シングルカットしてもヒットしそうなナンバーです。”Unfinished Song”はDennisと、Dennisの親友であり、妻Suzanneの姉Pamelaの夫であるCharles Lofrano(1949-2010)がクレジットされております。軍役経験もあったCharlesは、”The Serpent Is Rising”でもタイトル曲および”Winner Take All”でソングライティングにクレジットされておりますが、2010年に61歳で死去したことがDennisの公式サイトで知らされました。
B-2はしんみりとしたイントロから中間にやや迫力あるロック・サウンドへ展開し、最後にまたしっとりと締める、この時期のDennisの作品でよく聴かれるドラマティックな作品です。Dennisのヴォーカルで、まるで遠くから聞こえて来るようなピアノ音をバックに「イ~ブルァーイズ」と出だしでタイトル曲を熱唱するパートが印象的です。Wooden Nickelの全作品を収めた前述のコンピレーション盤”The Complete Wooden Nickel Recordings”が出るまでは、Wooden Nickel時代のベスト盤である前述の”Best of Styx“や、1980年にリリースされたベスト盤”Lady“、1999年にリリースされた2作目から本作までの編集盤である”Best of Styx 1973-1974“には収録の機会が得られませんでした。
B-3は私個人的にもアルバム中で最もお気に入りのハード・ロック・ナンバーで、JYがStyxでリードヴォーカルをとるナンバーの中でも屈指の名曲です。JYのダイナミックな歌声、Dennisらのバック・コーラス、キーボード・ソロとJohnの速攻ドラミングの合わせ技、何処を取っても隙がない名曲中の名曲です。JYのソングライティング仲間で、JYの兄(弟?)のRick Youngと地元シカゴでバンド活動をしていたRay Brandleの名前もクレジットされております。
B-4はB-2同様、Dennisのヴォーカルによる哀愁漂うドラマティックな作品で、”Crystal Ball(邦題:クリスタル・ボール。1976年)”収録の”This Old Man”を彷彿とさせます。”This Old Man”だけでなく、アルバムの後半にはDennisのこうしたペーソスを帯びたドラマティックな作品が収められ、たとえば”Equinox”収録の”Suite Madame Blue”、”The Grand Illusion(邦題:大いなる幻影。1977年)”収録の”Castle Walls”、”Pieces of Eight(邦題:古代への追想。1978年)”収録のタイトル曲”Pieces of eight”などに踏襲されていきます。
B-5のタイトル曲は当時のStyx流プログレッシブ・ロックともいうべき作品で、JYのヘビーなヴォーカルにのせて、スリリングな展開を次々と聴かせてくれます。アルバム・ジャケットのミラクルの男をイメージさせるにふさわしいナンバーです。5分に満たないですが、10分前後の大作のようにも感じます。Wooden Nickelのベスト盤においても、”Best of Styx”や”Best of Styx 1973-1974″、”The Complete Wooden Nickel Recordings”ではアルバムの”大トリ”に収録されており、当時のStyxのプログレッシブなサウンドを凝縮したような作品です。
このアルバムは1974年11月9日付のBillboard200アルバムチャートで180位にエントリー、前作”The Serpent Is Rising”の最高位192位を悠々と塗り替えました。そして11月16日のブログで話したとおり、16日付で初めてのアルバムチャートでのランクアップを経験する170位を記録し、次も162位と上がり、陽の当たった11月30日に最高位154位を記録しました。その後は174位→197位→195位→196位→193位→191位→182位→193位と下位にしがみつくようなチャート・アクションでしたが、前作をはるかに凌ぐ計12週間のチャートインとなりました。
シングルは前述にも記したとおり”Best Thing“をリカットしましたが、再チャートインもなく反応は鈍かったようで(これが原因で”Lies”に差し替えられたのかは不明です)、本アルバムからは”Lies”や”Unfinished Song”のプロモ盤は存在したものの、シングルカットはなぜかその後は行われず、代わりに”StyxⅡ“収録の”Lady(邦題:憧れのレディ)”を改めてリカットしたところ、1974年12月14日のBillboard HOT100シングルチャートで95位に初登場し、その後はヒット街道をスムーズに通るかのように83位→72位→62位→51位と上位に駆け上がるようなチャートアクションを見せ始めたのです。この頃”Man of Miracles”も前述の通り、”Lady”がエントリーした12月14日は197位まで下がり、圏外に消えそうなところにいましたが、”Lady”がラジオのエアプレイにもかけられてチャートを上がっていくと、これまで下がっていた”Man of Miracles”が少し上昇を見せているのです(195位→196位→193位→191位→182位。前述参照)。明らかに”Lady”が認知されていった効果だと思います。51位にたどり着いた”Lady”は1975年1月18日付で堂々の39位でTop40デビューを果たしました。その後、31位→27位→21位→17位→14位と駆け上がり、3月1日付で10位とTop10入りを果たし、次の3月8日付から2週連続で6位を記録、Styxにとって最初のTop10ヒットとなったのです。その後は12位→23位→42位と降下し、結果17週間チャートインする大ヒットとなり、1975年のYear-Endチャートでも100位中60位を記録したのです。5月17日付HOT100では”StyxⅡ”から再度シングル・カットされた、JYがヴォーカルをとる”You Need Love(邦題:ユー・ニード・ラブ)”が88位にエントリーし、2週間同位につけました。アルバム”StyxⅡ”もこの効果で、193位が”Man of Miracles”の最終アクションとなった1975年1月25日付のアルバムチャートで160位に初登場、リリースから1年半経ってようやくチャートインを果たし、しかもStyxのアルバムチャート最高位でのエントリーとなりました。結局”Lady”の効果でアルバム”StyxⅡ”は1975年3月8日付から2週連続20位を記録し、ゴールド・ディスクを獲得するヒット・アルバムとなりましたが、この成果でStyxは大きな飛躍を遂げていくのです。”Man of Miracles”のシングルではなく、1973年の”StyxⅡ”のシングルを改めて売りに出したことで、本当の”Miracle”が起きたというお話でした。そして、大成功を収めた1975年12月1日、勢いを持続するため、彼らはさらなる前進を遂げていきます。続きはまさに陽の当たる翌12月1日へ。
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