9月13日は何に陽(ひ)が当たったか?

1972年9月13日は、イギリスのプログレッシブ・ロック・グループ、Yes(イエス)の5枚目のスタジオ・アルバム”Close to the Edge(邦題:危機)”がリリースされた日です。Yes流プログレッシブ・ロックがついに花開いた作品となりました。
3作目”The Yes Album(邦題:サード・アルバム。1971年)”より、メンバーの高度な演奏技術と創作能力でもって組曲などの大作が収録され、その後のYesサウンドの原点がようやく現れます。そして年をまたぐことなくリリースされた次の”Fragile(邦題:こわれもの。1971年)”は、メンバーのそれぞれのソロ小作品と3曲の大作がうまくミックスされて、後世に残るヒット曲も出、これがYesの音楽だと言わんばかりの傑作となりました。”Fragile”は本国イギリスでのUKアルバムチャートでは”The Yes Album”の4位よりやや下がるも7位を記録しましたが、Billboard200アルバムチャートではイエスのアルバムで初めてチャートインした”The Yes Album”が40位であったのに対し、4位を記録してアメリカにおいても広く知られるようになりました。”The Yes Album”と”Fragile”とのブランクがわずか9ヶ月余りだったことで、1971年内に2作品リリースされたことが、いち早くYesの音楽が人々に認知されたことも要因であったと思われます。
こうしたYesの人気ぶりが高まっていく中でリリースされたのが”Close to the Edge”で、今回はほぼ1年の期間を経てリリースされました。Yesをはじめとするプログレ系ミュージシャンによって使用されたロンドン、ウェストエンドのAdvision Studiosでのレコーディングは5回目で、”The Yes Album”から本格的にプロデュースにまわったEddie Offordが、本作でもメンバーと共にプロデュースを担当しました。メンバーはSteve Howe(スティーヴ・ハウ。guitar,vo)、Jon Anderson(ジョン・アンダーソン。vo)、Chris Squire(クリス・スクワイア。bass,vo)、Rick Wakeman(リック・ウェイクマン。key)、そしてBill Bruford(ビル・ブラッフォード。drums)の5人で、前作に引き続き同メンバーでの顔ぶれです。Steveは”The Yes Album”、Rick Wakemanは”Fragile”からの参加で、残る3人はオリジナル・メンバーです。アルバムのスリーヴ・デザインは前作より引き続いてRoger Deanが担当、邦題の”危機”を感じさせるかのようなグリーンの色合い、中ジャケットの幻想的な地形もまたタイトルのイメージ・デザインにもなり得ます。そして何よりもなお、Roger DeanによってデザインされたYesのロゴ(画像はこちらwikipediaより)が初めての御目見得となりました。
さて、陽の当たった1972年9月13日にリリースされたこの”Close to the Edge”の収録曲は当時のアナログ盤でのリリースではA面1曲、B面2曲、両面で3曲という、Yesの純粋な大作主義だけが表現された、最初のアルバムとなりました。
A面(アナログ)
1.”Close to the Edge(邦題:危機)”。Anderson/Howe。total time18:50。
I. “The Solid Time of Change(邦題:着実な変革)”。
II. “Total Mass Retain(邦題:全体保持~トータル・マス・リテイン~)”。
III. “I Get Up, I Get Down(邦題:盛衰)”。
IV. “Seasons of Man”(邦題:人の四季)。
B面
1.”And You and I(邦題:同志)”。Anderson/Howe(except “Eclipse”)Bruford/Squire。total time10:09。
I. “Cord of Life(邦題:人生の絆)”。
II. “Eclipse(邦題:失墜)”。
III. “The Preacher, the Teacher(邦題:牧師と教師)”。
IV. “The Apocalypse(邦題:黙示)”。
2.”Siberian Khatru(邦題:シベリアン・カートゥル)”。Anderson/Howe/Wakeman。8:57。
2作品の組曲と1作品の楽曲の構成で、およそシングル向きにはなりえない構成ですが、いちおうはA面1曲目の”Close to the Edge”の第2楽章 “Total Mass Retain”やB面1曲目”And You and I”による編集ヴァージョンとしてシングル・リリースもあり、後者が1972年12月16日付Billboard HOT100シングルチャートで42位まで駆け上がっております(結果7週チャート・イン。タイトルは”And You and I PartⅡ”として)。

Jonの発想による独特な歌詞は、ドイツ作家Hermann Hesse(ヘルマン・ヘッセ)の作品”Siddhartha(邦題:シッダールタ)”がモチーフになっていると言われています。その歌詞の難解さに結合するかのように、四部構成のA-1では 、変幻自在でスリリングな展開になる一方で、パイプオルガンの調べにのせて神秘的な展開をも見せます。全体的には高度な緊張感に包まれているかのような超大作で、決め言葉のように”I Get Up, I Get Down”が繰り返されていますが、文字通り、「危機」から自由の境地へ解脱する様を表現しているのでしょうか。いずれにしてもA面ですっかりYesの世界にどっぷりとつかってしまいます。
Steveの美しいアコースティック・ギターで始まるB-1はある意味牧歌的な組曲で、非常に落ち着いた展開で進行していきますが、Rickのメロトロンが聞こえてくる”Eclipse”はこれぞプログレッシブ・ロックともいうべきパートで、Steveのスティール・ギターの響きも美しく、神秘的です。最後のほんの少し程度に聞かれる “The Apocalypse”でしっとり感に浸りながらB-1は終わります。
最後B-2はYesのロックです。1999年にアメリカのロック・グループ、Red Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)が発表したアルバム、”Californication(邦題:カリフォルニケーション)”に収録された”Get on Top(邦題:ゲット・オン・トップ)”にもその影響が見られます。複雑な構成ながらも所々にYesらしからぬファンキーなサウンドが顔を出すポップ性も兼ね備えており、最高の締めくくりでアルバム”Close to the Edge”は終わります。3曲とも、長編曲でありながらも長い、気怠いと感じさせない構成で、これぞプロフェッショナルと言えるアルバムです。
本作は本国UKチャートでは前々作”The Yes Album”以来の4位を記録しました。そして全米ではBillboard200アルバムチャートで、前作の記録を更新する3位を記録し、長きにわたるYesのキャリアの中で全米でのアルバム最高位を記録、まさに黄金時代の絶頂に立つことになります。日本のオリコン・アルバム・チャートでもトップ20入り(16位)を果たしたほか、オランダのチャートでは1位を獲得し、全世界でいち早くナンバー・ワン・アルバムが誕生しました。

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