11月12日は何に陽(ひ)が当たったか?

 1035年11月12日は、”北海帝国“の支配者として君臨した、クヌーズ(995-1035)の没年月日です。
 デンマーク王スヴェン1世(位985-1014)の治世に、デンマークを構成するデーン人によるイングランド征服の機会を得ました。それは1013年のことです。時のイングランド王、エゼルレッド2世(イングランド王位978-1013,1014-16。無策王)を1013年に退位させ、空いたイングランド王位にはスヴェン1世が立ち(イングランド王位1013-14)、イングランドにおけるデーン王朝を誕生させました(第一次デーン朝。1013-14)。デーン人によるイングランド征服です。
 ところが、スヴェン1世は翌1014年に急死したため、デーン人によるイングランドの征服はわずか1年で終わりました。デンマークでは長子のハーラル2世(デンマーク王位1014-18)が即位し、イングランドではエゼルレッド2世が復位しました。ハーラル2世の治世では版図は母国のデンマークだけで、父スヴェン1世のようにノルウェーやイングランドといった領域を失っておりました。
 ハーラル2世は失われた支配地の奪還に向けて、ハーラル2世の弟で、父スヴェン1世時代からイングランド遠征に加わっていたクヌーズ(カヌートクヌートとも)を戦地に送り込みました。クヌーズは父王が築いたデーン人のイングランドを復活させるため、幾度となくイングランド侵攻を重ねました。1016年4月、エゼルレッド2世は失意の内に病没し、直後に子のエドマンド2世が即位しました(王位1016.4-1016.11)。
 エドマンド2世は剛勇王と呼ばれ、その名にふさわしく、クヌーズ率いるデンマーク軍との攻防は優勢に進み、敵軍に包囲されたロンドンを解放するなど軍功を上げました。しかし同年10月、エドマンド2世はアサンダンの戦い(1016.10.18。イングランド東部のエセックス方面)でクヌーズ軍の猛反撃にあって敗北を喫し、直後の講和でクヌーズ側はテムズ以北の領土を獲得しました。
 そしてエドマンド2世は11月30日に20代後半の若さで突然謎の死を遂げました。死因は未だかつてわからず、病死説や暗殺説など挙げられるも確証がありませんが、エドマンド2世の支配地はすべてクヌーズに移譲する形となり、イングランドの全領土をクヌーズが支配することになったのです。そしてイングランドの重臣会議で、クヌーズが次のイングランド王クヌート1世として即位することが決まり(イングランド王位1016-35)、デーン朝が復活することになりました(第二次デーン朝。1016-42)。クヌーズは、父スヴェン1世が実現させたものの、その死で瓦解したデーン人のイングランドを再び再現させることに成功したのです。
 その後ノルウェーも手中に収めたクヌーズはノルウェー王としても即位しました(ノルウェー王位1028?/1030?-35)。自国デンマーク、イングランド、そしてノルウェーの王座を手に入れたクヌーズは、その版図を3国に加えスウェーデン南部まで拡大し、北海を取り囲む大帝国を築きました。これを北海帝国(1016-42。狭義では1030-42)と呼び、クヌーズは大王(the Great)の称号を得ました。
 30代半ばで北海の覇者となったクヌーズ大王は、イングランド王として直接統治し、デーン人による国家体制維持に努めました。クヌーズが大王として君臨したまさにこの期間が、ヴァイキング時代におけるデーン人の全盛期であり、北海帝国は盤石ともいえる安定政権を確保するはずでした。
 しかしクヌーズ大王は大王の称号を得て数年と経たないうちに、シャフツベリ(イングランド南西部のドーセット州)で没しました。陽の当たった1035年11月12日のことです。その後は子どもたちの支配でしのごうとしますが、ノルウェー、イングランドでは旧王家の逆襲にあい、1035年にノルウェー、1042年にイングランドの第二次デーン王朝は滅亡しました。
 イングランド統治が終わったデーン人は、母国デンマークにおいてもクヌーズ一族から王位が選ばれず、デンマークはノルウェーと同君連合となり(1042)、デーン人の黄金時代をもたらした北海帝国は、クヌーズ大王の死で完全に崩壊してしまいました。デーン人はその後デンマークに定住するノルマン人として、またイングランドに残ったデーン人も同地の民と同化していきました。
引用文献『世界史の目 第257話』より

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