11月14日は何に陽(ひ)が当たったか?
1949年11月14日は、アメリカのロック・グループ、Styx(スティクス)のギタリスト、James [JY] Young(ジェームズ・ヤング。gtr,key,vo)の生誕日です。言うまでもなく、彼はデビューからStyxという暖簾を一貫して守り続けております。
JYことJames Vincent Youngはイリノイ州シカゴの出身です。ギタリストとして名高いJYですが、そもそも楽器との出会いは5歳の時で、音楽が得意な父の影響でピアノやオルガンのレッスンを始めました。高校ではクラリネットやギターも始めますが、Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)やEric Clapton(エリック・クラプトン)、Albert King(アルバート・キング)といったの名ギタリストにインスパイアされて、ギターに重きを置くようになり、弟(兄?)であるRick Young(リック・ヤング。Richard Young表記もあり)らと音楽活動を始めていきました。
JYはThe Catalinasという最初に加わったグループで、10代バンドのコンテストに出場して賞を勝ち取り、ヨーロッパに渡ってライブを行いました。その後大学進学を目指してイリノイ工科大学に入学し、航空宇宙科学や機械工学を学び、学士号を取得しました。その傍らで、1970年にJYは引き続き音楽活動も行い、ロック・グループ、The Monterey Handを結成しました。しかし2人のメンバーが宗教活動を行う理由で脱退したため活動が停滞し、John Panozzo(ジョン・パノッツォ。drums)とChuck Panozzo(チャック・パノッツォ。Bass)、John [JC] Curulewski(ジョン・クルルウスキー。gtr,vo)そしてDennis DeYoung(デニス・デヤング。vo,key)らが活動していたTW4(この誕生の詳細はこちら)からの誘いを受けて、JYはTW4に加入しました。このTW4がのちのStyxとなり、公式デビューをつかみます。
Styxは演奏能力だけでなく、ヴォーカル/コーラスを重視したグループで、楽曲に応じてヴォーカルやコーラスのパートを使い分けていきました。メロディアスなDennis、ブルージーなJC、そしてダイナミックなJYといった、タイプの異なった歌声と美しいコーラスが最大の魅力となっていきました。1972年にWooden Nickelからファースト・アルバム”Styx(邦題では一般に「スティクスⅠ」が知られていますが、「スタイクス」という邦題も存在します)”でデビューしました。13分以上に及び、四部構成からなる組曲”Movement for the Common Man(邦題は英語読みですが、「平凡な人間のための楽章」という邦題も存在します)”の、JYが作曲した第1章、”Chldren of the Land“では、リード・ヴォーカル兼ギターをJYが担当し、Styxの最初の歌声はJYから始まりました。このアルバムではDennisと作ったデビュー・シングル、”Best Thing(邦題:ベスト・シング)”でもDennisと共にJYも美声を聴かせてくれます。”Best Thing”は、Billboard HOT100シングルチャートで、1972年10月14日から2週連続82位を記録しています。このアルバムでは、”Movement for the Common Man”以外での収録された全5曲中の3曲が、JYがメイン・リードヴォーカルを担当しました(“Right Away”,”Quick Is the Beat of My Heart”,”After You Leave Me”)。デビューした1972年は記念の年で、デビューアルバム、デビューシングルのリリース、初チャートインもさることながら、同年10月18日にガールフレンドのSusieとの結婚を発表しています。ちょうど”Best Thing”が最高ランクを記録していた日です。
1973年のセカンド・アルバム、”Styx II(邦題では一般に「スティクスⅡ」が知られていますが、「黄泉の国より」や「レディ/スティクス・セカンド」という邦題も存在します)”では、Dennisの作った楽曲で占められましたが、このアルバムの1曲目で、スピード感ある格好いいロックナンバー、”You Need Love(邦題:ユー・ニード・ラヴ)”でJYはリード・ヴォーカルをつとめており、ラストに収録された”I’m Gonna Make You Feel It(邦題:アイム・ゴナ・メイク・ユー・フィール・イット)”では演奏時間が短いものの迫力あるJYの歌声と卓越した演奏力でアルバム最後の取りを飾っています。”You Need Love”は”Styx II”の先行シングルで、リリース時はヒットしませんでしたが、のち(1975年)に同アルバム収録の”Lady(邦題:憧れのレディ)”のヒットを受けて、シングルとして再リリースされ、1975年5月17日から2週連続88位を記録しています。
Styxは1973年には3作目”The Serpent Is Rising(邦題では一般に「サーペント・イズ・ライジング」が知られていますが、「サーペント・イズ・ライジング/スティクスⅢ」という邦題も存在します)”を、1974年には4作目”Man of Miracles(邦題では一般に「ミラクルズ)」が知られていますが、「ミラクルズ/スティクスⅣ」という邦題も存在します)”をそれぞれリリースしますが、Wooden Nickelでリリースされた4枚のアルバムには、結果的にすべて各収録の1曲目にJYのワイルドなリード・ヴォーカルを収めるナンバーが収録されました(“Chldren of the Land”,”You Need Love”,”Witch Wolf”,”Rock & Roll Feeling”)。ちなみに”The Serpent Is Rising”にはJYの兄弟Rick Youngとの共作”Young Man“が収められているほか、Rickの仕事仲間で作詞家のRay BrandleもJYとの共作で、その後Styxのアルバムに数曲クレジットされました。
1975年はA&Mへの移籍、その後のJC離脱およびTommy Shaw(トミー・ショウ。gtr,vo)加入と、グループにとっては激動の1年になりました。A&M時代ではDennisとTommyが看板メンバーとして売り出されたため、JYはPanozzo兄弟と共にグループを陰で支える役割となり、その後リリースされるStyxのそれぞれのアルバムからは、収録曲中1曲ないし2曲のみのメイン・リード・ヴォーカルとなりました。その後Styxは全盛期を迎えますが、圧倒的に迫力あるJYの歌声はバラードやポップ・ロックに傾倒しつつあるStyxサウンドの中に、昔を忘れさせないヘビーでワイルドなサウンドを各アルバムに1曲は必ず残しながら、アルバム全体を引き締める役割でもありました。JYがリード・ヴォーカルを手掛ける楽曲の中で、1976年のTommyが初参加した”Crystal Ball(邦題:クリスタル・ボール)”での”Put Me On(邦題:プット・ミー・オン)”や1978年の8作目”Pieces of Eight(邦題:古代への追想)”での”Great Wihte Hope(邦題:グレイト・ホワイト・ホープ)”では、Wooden Nickel時代のように両アルバムの1曲目に収録されて、パンチ力のあるJYのナンバーでアルバムに勢いを付ける役どころを担いました。
1983年にStyxが活動を小休止することになったため(詳細はこちら)、1985年、JYはチェコ出身のミュージシャン、Jan Hammer(ヤン・ハマー)との協力で、初のソロ・アルバム”City Slicker(邦題:シティ・スリッカー)”をPassport Recordsからリリースしました(James Young with Jan Hammer名義)。1985年のJan Hammerといえば、8月に”Miami Vice(邦題:特捜刑事マイアミ・バイス)”のテレビ・サントラに収録されたテーマ、”Miami Vice Theme(邦題:マイアミ・バイスのテーマ)”がBillboard HOT100シングルチャートで1位を記録し、勢いに乗っていたアーチストです。JYとは妙な組み合わせな気もしましたが、それだけにJYの懐は深く、どんな音楽も吸収できる才能の持ち主だけに、ジャンルを問わない交流も多かったものと思われます。
“City Slicker”の1曲目に収録されたタイトル曲は、Ten Years Afterの”Good Morning Little School Girl”を彷彿とさせるギターリフが力強く、ダイナミックなヴォーカルとキャッチーなサビで非常に聴き応えのあるナンバーです。このアルバムからは9曲目(アナログ盤ではB面4曲目)に収録された”Wild Dogs In The Night”がシングルとして選ばれ、プロモーション・ビデオも作られました。ビデオは、モノクロの中で檻に入れられたJYが、街を出てセクシーに踊る女性に囲まれたり、オープンカーに乗ったりなどしてギターを弾きながらワイルドにパフォーマンスしています。またJan HammerとベーシストColin Hodgkinson(Janのセッション・メンバー)の作による8曲目(B面3曲目)の”Prisner of War”のようなミステリアスな楽曲をJYが歌うのも興味深いです。
続く1988年には、JYのソロ第2作で、純然たるソロ・アルバム”Out on a Day Pass“をリリースし、全9曲JYの単独プロデュースに挑みました。Jan Hammerは離れましたが、Janと活動を協力するヴァイオリニストJerry Goodmanが参加しています。この作品では3曲目(アナログ盤ではA面3曲目)に収録された”Toys For American Boys”ではStyxのJohn Panozzoがドラマーで、またRick Youngがベースでそれぞれ参加しています(Johnは5曲目のタイトル曲、Rickは9曲目のBigger They Areにも各参加。スピーディーなタイトル曲におけるJohnのドラミングは圧巻です)。また”The Serpent Is Rising”収録でRick Youngとの共作”Young Man”のセルフカバーを行っているのも非常に興味深いです。1曲目の”Sitting On Top Of The World”はシングルとしても売り出され、宇宙空間を背景にJYがギター片手に歌うプロモーション・ビデオも制作されました。
1990年と1995年のStyx再始動にも参加し、Styxの活動に率先する傍ら、JYはMichael Baran(gtr)、Lou DePasqua(key)、Hank Horton(bass)、そしてKen Harck(Drums。ロックグループ、TAMI Showに参加してヒット歴あり)とグループを組み、JY自身のバンド、James Young Group(ジェームズ・ヤング・グループ。JYG)を結成しました。1995年にJYのプロデュースでハード・ロック・アルバム、”Raised by Wolves“がリリースされました。JYGにとって唯一のアルバムです。ハードロックといっても、ヘビーになりすぎず、ポップで耳に馴染みやすいロック・ナンバーが収録されました。JY自身の作は全9曲中、2曲にとどまりまった分、Enuff Z’nuffのベーシストChip Z’Nuffや、Styxの主要メンバー、Glen Burtnik(グレン・バートニック。gtr,vo,bass。在籍1990-91,1999-2003)らの楽曲提供も大きなアクセントとなりました。Glenが書いた楽曲では、8曲目に収録された、Lou DePasquaが歌う”Heaven In Your Heart”のロック・バラードは非常に卓越しています。
1998年にはイリノイ州シカゴのロック・グループ、7th Heavenの制作に関わったり、彼らをStyxツアーにジョイントさせるなど、後続バンドへのサポートも行っています。現在のStyxはTommy Shawがフロントマンをつとめておりますが、デビュー以来、Styxの看板を陰で背負い、ヘビーでワイルドなパートを担当するJames Youngの存在は非常に大きく、2017年リリースのスタジオ・アルバム第16作”The Mission(邦題:ザ・ミッション)”でにおいても4曲目収録の”Trouble at the Big Show”で変わらない歌声を披露しています。
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